【医療者向け】これは緩和ケアにおける壮大な「研究」である

皆様こんにちは。川崎市立井田病院の西智弘です。

このたび、病院の仕事とは別に、「一般社団法人プラスケア」を立ち上げ、川崎にて「暮らしの保健室」を中心とした事業を展開することを計画しています。

その事業の立ち上げに際し、3/1からクラウドファンディングに挑戦しています。

 

キャンプファイヤー:川崎市で、みんなのつながりをつくる「暮らしの保健室」を開きたい!

 

是非、こちらをご覧いただいている医療者の方々にもご支援を頂きたいのですが、川崎近郊の方でなければ、これに支援をする動機がわかないという方ももちろんいると思います。

 

しかし、これは私としては「緩和ケア分野におけるひとつの研究」と位置付けています。そこから得られる結果は、多くの先生方にも還元できるものと考えます。そのため、もちろん財団などに研究としての援助も今後依頼していく予定ですが、ひとつの「社会実験」として日本の医療者みんなからの支援を頂けないかと考えています。

 

早期からの緩和ケアは、どのように実践が可能なのか?

 

私が、今回の取り組みを「緩和ケア分野におけるひとつの研究」と位置付けるには理由があります。

その大きなカギは「早期からの緩和ケア」にあります。

 

2016年末に、がん対策基本法の改正が行われ、その条文の中で「がんと診断されたときからの緩和ケア」が明記されました。「がんと診断されたときからの緩和ケア」は誰が提供すべきなのか?という議論もありますが、進行・再発癌に限った話で言えば、診断後早期から専門的緩和ケアサービスが介入していくことは、世界的にも数多くの検証がされ、概ね良好な結果が報告されています。ASCO(米国臨床腫瘍学会)でもそのガイドラインで、全ての癌種に対して入院中だけではなく外来でも「早期からの緩和ケア」を行っていくことを勧めています(1)。

 

そういった流れの中、私は川崎市立井田病院において、他院で抗がん剤治療中の患者さんに外来で緩和ケアを提供するための「早期からの緩和ケア外来」を2015年8月に開設しました(2)。そこでの取り組みは実際の患者さんから好評をいただくことも多かったものの、この外来を1年運営して私が抱いた思いは「この『早期からの緩和ケア外来』では届かない患者さんがいる」ということでした。

 

緩和ケアのレイヤー理論

 

「緩和ケアのレイヤー(層)理論」というのは、私自身が考え出した造語ですが、これはつまり、緩和ケアが提供されるそれぞれの「層(レイヤー)」において、患者群が異なるという事実です。「在宅」「病棟」「外来」の全てにおいて、その間には少なからず「壁」があります。「病棟」しか見ていなければ、外来→在宅という流れの患者さんを目にすることはありませんし、その患者さんの「緩和ケア病棟にだけは行きたくない」という声を聴くこともありません。逆に、在宅だけを見ていれば、「絶対に家には帰りたくない」という患者さんの声を聴くこともありません。

 

もっと言えば、腫瘍内科医が診ている患者さんのうち「緩和ケア医にだけは絶対に紹介しないで」という患者さんに出会うことはないですし、非標準治療クリニックを信奉している患者さんの声を聴くこともありません。

このように、「診断時からの緩和ケア」と一言で言っても、そこから終末期に至るまでには様々なレイヤーに分かれており、その境界を越えられない患者さんは、他のレイヤーで働いている医療者には見えていないだけで、実際にはたくさんいるのです。

まして、健康診断で「がんの疑い」と言われ、精密検査の結果を待つまでの不安に対するケアなどに至っては、法律でもカバーされない領域なわけです。

 

私は、このレイヤーを少しでも無くすことができるよう、前述の「早期からの緩和ケア外来」や「緩和ケア病棟から訪問診療に行ける仕組み」そして「エンベデッド緩和ケアモデル」と呼ばれる、腫瘍内科と緩和ケアが完全に統合された診療システムを構築してきましたが、それでも届かない患者さんが多数いるのです(3)。

 

緩和ケアという言葉を使わずに緩和ケアをする

 

その結果として、私が考えたのが「暮らしの保健室」を拠点とした、地域緩和ケアチームの設立です。既存の「暮らしの保健室」の仕組みとは異なり、拠点を構えて「相談者を待つ」だけではなく、地域の中に積極的に入っていって、その中からの緩和ケアニーズを掘り起こすという仕組みです。

 

前述のような、「がんと診断される前の不安」に対応することもできますし、診療報酬などにしばられないチームなので、看護師が患者さんに付き添って病院へ行き、医師とのコミュニケーションのサポートや、意思決定支援、精神的ケアなども行います。必要な医療介護資源と患者さんや家族をつなぐ、医療コーディネーターとしての役割もそうですが、よりインフォーマルなソーシャルキャピタルと患者さん・家族をつなぐことでQOLの向上を目指す「社会的処方(Social Prescribing)」も行います。

これまでの医療や緩和ケアの枠を超えて、医療者と市民が気軽に、そしてゆるいつながりを持つことができる仕組みの構築を考えています。

 

こういった取り組みを通じて、大きな病気に診断される前から、そして診断されたのちも、住民に積極的に関わって地域全体をケアしていくことが「緩和ケアという言葉を使わずに緩和ケアをする」、つまり専門的緩和ケアサービスをわざわざ医療機関に赴いて利用しなくても、早期からの緩和ケアを受けたことと同等のアウトカムが得られるのではないかと予想しています。

 

早期からの緩和ケアの本質

 

早期からの緩和ケアの本質とは、「つながりの再構築」にあるのではないかと私は仮定しています。これまでの医療システムでは、断絶の連続であったがん治療の軌跡ですが、早期からの緩和ケアが入ることでその断絶を和らげ、人生に向き合っていけるのではないかと考えます。

そのためには、医師だけでも、看護師だけでも限界があり(4)、それら職種がチームを組んで、早期から関わっていくことが必要と考えています。

 

今回の私たちの取り組みが評価されれば、多くの患者さんにとって希望の一つとなることが予測されます。この取り組みについては学会や学術誌でも発表をしたいと考えています。

もちろん、現時点では仮説の積み重ねが多い点や、費用対効果の面の検討が甘いといった要素もあります。その点についても、今後活動を続けていく中で量的に評価を行い、発表と修正を行っていく予定です。

 

ぜひ、この「研究」に、皆様のご支援を頂けると嬉しく存じます。何卒よろしくお願い申し上げます。

 

キャンプファイヤー:川崎市で、みんなのつながりをつくる「暮らしの保健室」を開きたい!

 

 

(参考文献)

1)Ferrell BR, et al. Integration of Palliative Care Into Standard Oncology Care: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Update. J Clin Oncol. 2017;35: 96-112.

2)西智弘, ら. 早期からの緩和ケア外来の実践に関する後方視的研究. Palliative Care Research. 2017; 12: 901-905.

3)Hui D, et al. Models of integration of oncology and palliative care. Ann Palliat Med. 2015; 4: 89-98.

4)Bakitas M, et al. The project ENABLE II randomized controlled trial to improve palliative care for rural patients with advanced cancer: baseline findings, methodological challenges, and solutions. Palliat Support Care. 2009; 7: 75-86.