医療からみる中原区の未来

武蔵小杉や元住吉では、新築マンションの建設が盛んですね。


高層マンションやタワーマンションの建設ラッシュ、そしてそれに合わせた商業施設の出店などで、人が増えて雇用が増えて、まちはどんどん賑わいを増していくようです。


その一方で「タワーマンションもうお腹いっぱい」、「日照やビル風の環境問題が・・・」、「そんなに建てても結局空き家になるんじゃないの」といった否定的な声も少なくないですね。

 

筆者も、現在の武蔵小杉・元住吉の現状をみて、色々とハラハラしている一人です。

 

さて今回、このエントリでは「医療」という視点に絞って、様々なデータを元に、中原区の未来を考えてみたいと思います。


まず、こういったマンション群の未来として思い浮かぶのは、これまで高度成長期に建設された「○○ニュータウン」といった類のマンモス団地の現状。

ニュースでもたびたび取り上げられていますが、かつて数千人という勤労世帯とその子供たちが入居しておおいに賑わっていた団地が、子供たちが巣立って高齢世帯ばかりが残るようになってしまったいま、すっかり寂れ、様々な社会問題がおきています。

こういった団地の現状を見聞きするたびに、このまちの未来の姿もこうなるのでは・・・と危惧される方も多いのではないでしょうか。


平成24年度診療報酬改定説明会(平成24年3月5日開催)資料等について|厚生労働省、より
平成24年度診療報酬改定説明会(平成24年3月5日開催)資料等について|厚生労働省、より

そして2025年問題。

2025年問題とは、75歳以上の高齢者が2015~2025年に760万人近く増加することで、医療機関の不足や介護負荷の増加による社会的問題が噴出すると、いう問題です。

 

例えば、急に具合が悪くなって、救急車を呼んだとしましょう。しかし近隣の病院は全て満床で受入不能。結局30分以上救急車内で待たされて、ようやく見つかった受け入れ先は車で1時間以上先の病院・・・、とか。

また、年を取って何らかの病気にかかり、余命が限られてきたとき、最後の時間を自分の望む場所で安らかに過ごしたい、と思っても、入院でも自宅でも介護施設でも、医療資源や介護の人手がなくてみることができず、いわゆる「死に場所がない」という問題が起きるかもしれません。実際、上の図のように国の推計では、2025年には40万人近い方が、病院・自宅・介護施設以外の「国も想定できない場所」で亡くなる可能性を示した、怖い図を公表しているのです。


ただ、こういったニュースを目にしても、「じゃあ、自分たちのまちはどうなるの?」というのはよくわからないですよね。

全国規模だったり、自分の住んでいないマンモス団地の話だったりで、まるで遠くの国の話を聞いているような、そういった感覚にならないでしょうか。


ではこれを中原区や川崎市のデータをもとに考えてみましょう。


まず、2025年問題で大きな影響を受けるのは、神奈川県を含む都心部が中心と言われています。

実際、神奈川県は高齢者増加量で全国トップクラス、川崎市だけでも75歳以上人口は10年前と比べて4万人近く増えています。

「高齢化って、過疎化した地方の話じゃないの?」と意外に思うかもしれませんが、高齢化は「率」よりも「量」が問題となります。

量が問題となる理由は、入院可能な病床数が限られているためですが、そもそも川崎市は人口10万に対して546床(一般床)で、全国平均704床を大きく下回っています(ちなみに全国トップの高知県では1063床で、地域の広さなどもあって一概に比べられませんが2倍近い開きがあります)。

でも、普段の病気なら、診療所があるでしょ?という声もあるでしょうが、診療所数も人口10万人に対して川崎市では65施設と、全国平均の79施設からみると少ないのです。


中原区の人口ピラミッド (川崎市保健統計 平成24年度 より)
中原区の人口ピラミッド (川崎市保健統計 平成24年度 より)

ただ、中原区にフォーカスすると、川崎市の中では比較的病床数や診療所が多く、10万人当たりそれぞれ713床、74施設でほぼ全国平均並み。

 

さらに、中原区の人口構成は、平均年齢が40.5歳(川崎市42.3歳、全国44.9歳)で65歳以上の人口比も15%(川崎市全体は18%、全国は25%)と比較的若い地域であることが見て取れます。特に30~40歳の世代人口が多く、そのことを考えると、中原区は「病気になりにくい人が多い割には、医療機関は比較的充実しているまち」と言えます。


グラフで見る各年10月1日現在の世帯数・人口/川崎市
グラフで見る各年10月1日現在の世帯数・人口/川崎市

しかし、それなら安心だー、と胸をなで下ろすのは早計かも知れません。


まず、中原区だけでも10年前より65歳以上人口は8000人増えており、それに対して病床数は減りこそすれ増えることはないのですから(病床数は行政で数が制限されているため)、他の地域よりも「2025年問題」が来るのが遅くなるかもしれない、というだけで、今から対策をしていかないとならないのには変わりありません(川崎市の推計では2025年までに中原区全体で5万人近い人口増を見込んでいます)。


さらに、冒頭の話題に戻りますが新築マンションの建設ラッシュ。

 

今後急速に人口が増えれば、それだけ急速に現在から未来にかけて医療負荷も上がります。他の地域と同じくらいのスピードで医療ニーズが上がるなら、現在の医療資源だけでも徐々に対応していけるかもしれませんが、急速なニーズの上昇があれば、対応が追いつかずに2025年よりも先に、医療のパンクが起きないとも限らないということです。


いや、実際に医療の現場にいるとわかることですが、もうすでにパンクは起き始めているのかもしれません。

入院したくても病院は満床、自宅で過ごすにも介護者も高齢で不安、介護施設は1年待ち(もしくは高額)・・・で、病気を抱えて暮らす場所がないまま本人や家族が右往左往したり、神奈川県外の介護施設などへ転院していく、といった状況はしばしば見られるようになってきています。

 

もうひとつリスクをあげるとすると、急速な人口増によるコミュニティの希薄化も懸念されます。マンションは構造的に隣近所との交流が少なくなりがちであり、お互いが別の地域から入ってきたいわゆる「新住民」だったりして、新たな人間関係を意図的につくらなければ「引きこもり」になる可能性もあります。

 

昔ながらの世代をまたいだ人間関係を築いてきたコミュニティでは、高齢・独居の世帯でも、ご近所さんや幼なじみさんなどがどこからか現れて、お互いに助け合ったりしながら生活している場合もあります。しかし、マンション内では中々「お互いの家を行き来」することも難しいのではないでしょうか。

 

そしてまた、マンションの多くは構造的に世代をまたいだ人間関係を維持することは想定されていません。部屋割りは2LDK~4LDKで、子供が成人すればそこから出て行く、ということが前提ですよね。そうすると、後に残されるのは高齢夫婦もしくは高齢単身となり、家族同士での支え合いも難しくなる場合があります。実際、川崎市全体で平成7年からの15年で高齢夫婦世帯は2万世帯、高齢単身世帯は3万世帯以上増えています(マンションだけに限りませんが)。

 

子供も、ご近所さんにも頼ることができず、医療や介護の供給も追いつかない中で、「住み慣れたこのまちで過ごしたい」と言っても過ごせなくなるリスクがあるということなのです。


もちろん、川崎市でもこれらのデータを持ちながら何もしていないというわけではなく、地域医療連携の推進や、介護施設の整備、インターネットなどを利用した情報提供・啓発活動などを行っており、2025年問題に対応すべく、対策を打ってはいます。

在宅での介護サービスも整備されてきており、高齢夫妻や独居の世帯でも、あまり大きな負担なく自宅で過ごすことができるようになってきてはいます。ただ、医療・介護資源は慢性的に不足しているのが現状です。


では、こういった状況の中、私たちひとりひとりは何もしなくて良いのでしょうか

そもそも健康というのは、病院や行政が「管理」してくれるものでしょうか。

自分の健康を「自分事として」考える。

それはこの+Care Projectの出発点でもあります。


コミュニティの力を高める活動も、お祭りやイベントなどを通じて様々に行われていますが、まだまだ歴史も浅く、これからに期待されるところです。


中原区の医療の現状は、データから見る限りまだ若干の余裕はありそうですが、急激な人口増の負荷がどういった形で問題になるか、不安定な状況とも言えます。

このまちで今まで通り暮らすために、ひとりひとりが今から考えていくことが、10年後、20年後の未来を創るものと思います。

 (ニシトモヒロ)

 

 


(参考)

・厚生労働省医療施設調査(平成25年度)→http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/13/

・川崎市保健統計(平成24年)→http://www.city.kawasaki.jp/350/page/0000058944.html

・川崎市年齢別人口(平成25年)→http://www.city.kawasaki.jp/200/page/0000052557.html

・診療所数2012年 →http://todo-ran.com/t/kiji/14382

・川崎市地域医療計画(平成25年~29年)→http://www.city.kawasaki.jp/350/page/0000049037.html


追記(2014/9/26)

記事を読んだ方から「中原区に住んでいても中原区の医療機関にかかるとは限らず、1割以上は通勤先の都内の病院へ受診する」といったご意見を頂きました。


たしかに、これは筆者自身ががんや緩和ケア、高齢者医療などを専門としているので、私自身の視点が偏っていて、かつ日常的な受診と病院への入院を混ぜて論じてしまい、私のミスでした。


私自身は、基本的には「自分が住む地元で、信頼できるかかりつけの医療機関に長くかかった方が良い」という考えです。

川崎は都内にも近く、特別な手術や治療などについては確かにそちらにある病院で治療を受けたい、というのはわかりますし、一時的なものならよいと思います。

でも、加齢に伴う様々な障害など長期的な視点で診てもらう必要があるもの、またはがんなどの人生そのものがかかる疾患(手術だけで治癒するものを除く)などの場合は、病気だけを治療すればはいおしまい、というわけにはいかず、患者さん本人はもちろん、家族や周辺環境、その歴史なども含めて診てもらうことが大切になります。遠方の医療機関では、もちろん地元の事情はわかりませんし、長期に付き合うのも困難で、いずれは医療機関側から「今後は地元のお医者さんに診てもらって下さい」と言われることもあります。

その時に改めていちから医療機関を探して信頼関係を作っていく、というのは結構しんどい作業ですので、私は基本的には長く住む地元に、かかりつけの医療機関を作っておく方が、人生をトータルで考えたときにはよいと思いますよ、という前提で上記の論を書いています。


また、都内は川崎以上に医療不足の状況です。

都内の病院にかかりつけでも、いざというときに入院できない、というのは川崎以上にありえることです。


この論の主旨はまた、この地区の医療的視点からみた現状を把握して、そのために住民ひとりひとりが何ができるかを考えよう、というところにあります。

この+Care Projectは、その答えのひとつの形ですが、これが全てではありません。このプロジェクトをとっかかりとして、もっと多面的に社会が変わっていく必要があると思っています。

(ニシトモヒロ)